八発白中

技術ブログ、改め雑記

リードエンジニアが育休を6ヶ月取ることにした話

先月子供が産まれました。この記事は育休を取得しようと思った経緯を書き綴ったものです。

妻の記事はこちら。

meymao.hatenablog.com

ことの始まり

2019年1月。妻は妊娠7ヶ月を迎えていた。

うちは夫婦共働きで二人共30代の中堅会社員。子供が産まれても働き続けたいという希望はある。けれど初めての子であるために働きながら子育てをするとはどのようなものかという実感が薄い。Web上には育児の大変さを吐露する書き込みはいくらでもあるが、それらは隣町の火事程度にしか思えず漠然とした不安しかなかった。

夫婦の両母親には出産予定日を伝えてある。産後に手伝いに来てくれないかという依頼を伝えるためである。しかし二人とも仕事をしているという都合や、遠方 (福岡) に住んでいるという事情もありなかなか思い切りのよい返事は得られない。

妻から育休の話をされたのはその頃だった。

――育休を取る予定はある?

育休は誰でも取れる

僕が働いているのは社員20人にも満たない小さなスタートアップ。入社時に育児休業の制度についての案内はない。メルカリとかもっと大きい企業で働いていればあるいは育休も考えたかもしれない。

ここで自分の無知を晒しているのだが、育児休業は会社の制度ではない。国の法律 *1 で定められたものである。つまりは勤め先の大小、制度に関わらず育児休業を取得することができる。さらには雇用主が従業員の育休を拒否することはできない *2。また、育休取得を理由に解雇などの不当な扱いをしてはならないことになっている *3

このことを僕は妻から教えられた。ということは自分も育休を取得することができるのではないか?

育休を取るか取らないか

ここで初めて育休を取るか取らないかという問題と向き合うこととなった。

家族のことのみを考えるなら当然ながら育休を取るのが正しい。懸念はやはり会社のことだ。

会社では僕はリードエンジニアという役割を与えられている。マネージャーが別でいるわけでもないので、マネージャー的な役割も一部で兼ねている。主に開発進行と技術選定、コード品質管理、メンバーの成長を責務としている。

育休を取るに当たってさらに後ろめたい要素としては、担当のプロダクトが自分が一人でスクラッチから書いたものであり、僕しか見ていない箇所もそれなりにあることだ。使っているライブラリ群も僕が作ったオープンソースプロダクトを大胆に使っている。もし育休を取得するならチームメンバーの負担は大きなものになるだろう。

チームのメンバーは5人と小規模だが、翌月さらに2人の増員が予定されていた。そんな状況で2ヶ月後に育休を取っていいものだろうか。

半育休という選択肢

1ヶ月程度の育休ならば無理はないかもしれない。会社にも言いやすいだろう。けれど、生後1ヶ月といえば寝返りをうつこともできない無力な赤子である。その赤子を妻一人に任せて仕事をするというのは十分に育児の責務を果たしたと言えるのだろうか?

この難しい問題を数週間塩漬けにしたある日、また妻から有益なことを聞いた。妻の会社の同僚男性は半育休と言って育休取得中も週数回程度の勤務を続けていると言う。そんなことも可能なのか。

調べてみると、 育児休業中は給付金がもらえるのだが、この給付金は月に10日 (または80時間以内) の就労であれば支給される。これを利用して週2・3回や超時短での勤務をしても育児休業給付を受けることができる *4。俗に半育休と呼ばれているらしい。

育休を取ることの決定打となったのはこの情報だった。そして期間ももっと伸ばしてもいいのではないかと考え始めた。

どれくらい育休を取れば十分か

どうせ育休を取るなら不安がなくなるまで取ってしまいたい。どれくらい取れば十分なのだろうか。3ヶ月?半年?それとも1年?

結果的に自分は6ヶ月に決めた。3ヶ月では首もすわらない子を妻一人に託す心配が強く、とはいえ1年では長いような気がする。間を取って6ヶ月くらいがよかろうと決めた。

やや蛇足のような話だが、男性に限っては2回に分けて育休を取得することができる (パパ休暇)。我が家では共働きのため1歳で保育園にいれる予定でいるが、その入園準備に母親が忙殺されるという話も聞いたためにその時期に合わせて二度目の育休を取ることも考えている。

追記: パパ休暇は生後8週間以内に育休取得開始および終了したときという条件らしく僕の場合は該当しないよう。

社長に伝える

時は2月末。この時点で妻は妊娠8ヶ月で産休間近。翌々月出産と考えると育休の件もそろそろ会社に伝えねばなるまい。

取り急ぎSlackのDMで社長に育休を取りたい旨を相談という形で連絡した。

返事は、まだ制度を整えていなかったために社労士と相談してまとめたいので時間をくれとのことだった。

その後一ヶ月ほど待たされての面談である。

前述の通り、雇用主が従業員の育休を拒否することはできないし、育休取得を理由に不当な扱いをしてはならない。にも関わらずWeb上では育休取得に関しての雇用主との対立の話はときどき見られる。もし拒否されたらどうしようか。そう考えて面談のときには少し緊張していた。

面談では社長から育休の概要を伝えられ、期間や半育休、二度目の育休について相談をした。結果どれも希望通りになりそうだった。さらには社長は歓迎よりの態度だったことが安心感がある。半育休の話についても生後3ヶ月くらいは大変だろうからと言われた。さすが二児の父親だけあって育児についても言葉に思いやりがある。

もし育休を思うように取れないとなれば退職も考えようかと身を強張らせていただけに肩透かしを食らった形だが、会社への感謝は大きい。

チームに伝える

その後チームの定例ミーティングでも育休を取得する旨をメンバーに共有した。

育休開始の一ヶ月前にチームメンバーにも共有できたというのはメンバーの心づもりとしても引き継ぎのことを考えても非常によかったと思う。

メンバーからは頑張ってくださいという程度の当たり障りのない励まし以外は特にコメントはない。入社すぐのメンバー2名もいるし、どちらかというと不安が大きかったと思う。

引き継ぎをする

僕の中で、面談のときに社長に言われた言葉が心に残っていた。

「逆に深町さんがいないことでチームが強くなり、戻ってきたら一気に倍速で開発するような流れが最高だよね」

自分の育休による不在をそのように利点に転化させてしまう考えに感心し、チームを抜ける後ろめたさが和らいだように思う。これを機会にメンバーのリーダーシップや自律性を高め、担当範囲も拡げてしまおう。

そう考えた自分がやったことは、自分の頭の中にあった開発ロードマップを社内Wikiに転載することだった。立場上自分がやらなければならないことはチームが向くべき方向を決めることで、自分の不在で直ちに困る点もそこだろうと考えたのだ。

残したロードマップではさしあたって二ヶ月程度だとは思うが、半育休であるので続きは追って描いていけばよいだろう。

出産、そして育休へ

育休を取得した人は口を揃えて「働いているほうが楽」だという。本当だと思う。

試みに自分の一日のタイムスケジュールを見てみると、16時間 家事育児、5時間 睡眠、3時間 食事・風呂・その他という内容だった。

なぜこのような激務なのかというと、新生児は3時間おきにミルクをあげる必要がある。ミルクを作るのに10分、与えるのに20分、寝かしつけに10分〜60分程度がかかる。そうすると3時間サイクルといっても間は90分〜120分程度しかなく、その間に細切れに睡眠することになる。しかもサイクルの間であってもランダムにオムツが濡れたなどの理由で泣く。

うちの場合は夫婦二人共育休を取得しているため、夜間は交代で看ているので睡眠時間は5時間取れているが、訪問助産師の方に聞く限りこれは長いほうである。人によってはトイレに行く暇もないために膀胱炎になったという話も聞いた。いくら仕事が忙しくてもトイレに行く暇がないという話は聞いたこともない。ワンオペ育児のつらさは想像するだけで恐ろしい。

育休に対するさまざまな反応

人々に、育休を取得している、という話をすると驚かれることが多い。その中でも興味深かった事例を紹介したい。

会社のパーティでチームメンバーの奥さんが来られていたのだが、育休取得について話をしたときに「リーダーが (育休を) 取ってくれると他の人が取りやすくていいですね」と言っていた。全く考えてもみなかったが、自分はよい先例となったのだなとそのとき気付かされた。

また一ヶ月検診の際に、平日昼に父親も同行していることが珍しいらしく小児科の先生に「プログラマは時間の都合がつきやすいのかな?」などと訊かれて「今は育休中です」と言うと「育休!先進的な会社だね」と言われてなんと答えてよいのかわからなかった。育休は国の制度なので会社は関係ないのだけれど。

追記:

id:tomoya_edw なんで「自分も知らず」「後ろめたさを感じていた」事柄を知った後・自分が適用された後では、「会社は関係ない」などと言えるようになるのだろう。

自分の無知を棚に上げている、という意味であれば、相手は小児科医であり僕のような乳幼児の親と毎日顔を合わせる人間は自分よりは知識があろうという先入観からの純粋な驚きです。

自分の特殊な事例を幸運とも思わず厚顔であるという話であれば、そのように思われるのも致し方ないかなと思います。

もちろん「いい会社だね」と言われれば感謝から頷かざるを得ません。けれど法令で定められている以上、単に育休を取れるというだけで「先進的」というのは行き過ぎた賛辞ではないかなというのが僕の感じたことです。弊社も法令がなければ特別な対応をしようとは思わなかったでしょうし。

追記ここまで

おわりに

現代の家庭を持った男性は――自分もそうだが――やや同情さるべき面があると思う。

自分らの父親世代では男は仕事、女は家庭というのが当たり前であったために、現代の共働き家庭でどう振る舞うべきかというロールモデルに乏しい。社会では男性の家庭参加を推奨する一方で、古い価値観を持った人間はその態度を否定しようとしたり拙い男性の努力を鼻で笑う。その板挟みで常に腰が落ち着かないというのが正直な自分の感想である。

僕個人としては女性の社会参加を応援したい。というか今の労働力不足を考えれば女性にも働いてもらうしかこの国を支えることはできない。そして女性の社会進出と男性の家庭参加とは表裏一体である。

まだ大半を残した育休がどのような結末を迎えたとしても僕は自分の決断に後悔することはないだろう。我が子が、この国に生まれて本当に良かった、と思えるような国となるよう日々努力を続けたい。

#「迷い」と「決断」

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*1:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000076

*2:第六条 育児休業申出があった場合における事業主の義務等

*3:第十条 不利益取扱いの禁止

*4:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/keizaisien3003.pdf