八発白中

技術ブログ、改め雑記

なぜShibuya.lispは成功し続けているのか

この10月の3連休を利用して、大阪で開催された関西Lispユーザ会にお邪魔しました。

kansai-lisp-useres.connpass.com

一枠空きがあったので20分程度の発表もさせていただきました。いまいち余計だったかもしれません。

すべての発表が終わったあとにイベント終了まで少し空き時間がありました。その時間を利用して運営の一人の油谷さんから関西Lispについての運営指針の話がありました。内容は「Shibuya.lispは作ったプロダクトの発表の場になっていて発表のハードルが高い。関西Lispは気軽に発表してもらい、アットホームなコミュニティにしたい」というものでした。

僕は東京に住んでいることもあり普段はShibuya.lispコミュニティに参加しています。運営者とも話す機会が多いので運営指針もそれなりに聞いています。そういう立場で話を聞いていると「ほう、外からはそのように見えるのか」と非常に興味深く思いました。

Shibuya.lispの運営指針

実際のところShibuya.lispのイベントでの発表に具体的な制約はありません *1。発表したいと思った人が好きなテーマで好きな時間を使って発表できます。

「ライブラリを作りました」とか「ISLisp処理系を作りました」というような技術的に高度なものが目立つし事実かなり多い、というのは言われてみるとそうだな、という程度であまり意識したことはありませんでした。結果的にハードルが高くなって発表しづらくなっている、といえばそうなのかもしれませんが、かと言って逆に高度な発表を禁止するというのも違うでしょう。

そんな高度な発表も多くありながら毎月のイベント開催を5年弱もの期間継続しており、毎回20人前後の参加者を集めているというのがShibuya.lispの歴史とコミュニティの成熟による成果なのだとすると素晴らしいことだと僕は思います。

なぜShibuya.lispは成功しているのか

このようなShibuya.lispの成功は、東京という地の利はあったにせよ、運営陣の努力なく達成されているものではありません。

この辺りのポイントはκeenさんの以下のエントリーにまとめられています。

4年間続いたShibuya.lispのLispMeetUp | κeenのHappy Hacκing Blog

特に僕が重要だと思う点は「運営の負荷を減らした」ということです。

安定的に毎月のLisp Meetupの行うにはどうすればいいか。属人的な努力には依存しないことです。誰かの大きな努力に依存すればその人が忙しくなったタイミングで開催が途絶えます。

たとえば毎月安定して使える会場を用意することで、会場を手配するコストを減らしたり、毎月の開催テーマをローテーションすることで、何をやるかという運営の決断コストをなくすなどの工夫がなされています。

「発表者が集まらない問題」の解決策

加えて、関西Lisp油谷さんが問題としていた点は「だんだん発表者が集まらなくなっている」ことでした。

発表者を、関東陣の僕を除いて、4人も集められているのだから全く問題に感じる必要ないのでは、と思いはするのですが、イベント運営者としてはありがちな不安なので理解はできます。

Shibuya.lispの初期の運営のTech Talkも同じ問題を抱えていました。Tech Talkを定期開催しようとしても発表者が集まらず、運営が伝手で発表してもらえそうな方にお願いしており、それが運営陣の負担となっていました。そしてそれが「どうせ開催しても発表者集まらないしな」というネガティブな空気にも繋がり、運営が途絶える要因となります。

Shibuya.lispの運営が第2期メンバーに引き継がれたときに上記の問題に対する重要な決断は「発表者がいようがいまいが開催する」ということでした。

「そもそもShibuya.lispが何を目的として存在するのかを考えなくちゃいけないんじゃないですか」

単にイベントを開催するにしても、なぜ、というのが明確でなければいずれまた目的を見失う。Shibuya.lispは何かの手段であって、目的ではないんじゃないか、と。

僕のその言葉に一同黙り込んだ。さあ、Shibuya.lispをやる目的とは何だろうか──。

そのとき前運営の立場として参加していた佐野さんが言ったことは、図らずも新しい運営方針を決定付けたものかもしれない。

──「理由はそのコミュニティに集まった人々で作ればいいことで、我々はただその箱を用意すればいいんじゃないかな。だとすれば、『続ける』ということも十分目的になるよ」

Common Lispのコミュニティ事情 - 八発白中

発表者がいなければいないでいいのです。集まったメンバーで自己紹介をしてだらだら話をするでもよし、その場でライブコーディングを始めるもよし、早めに切り上げて飲みに行くでもよし。何にせよ場を作り続ける、ということを目的としたことは振り返っても成功の要因だった気がします。少なくとも「発表者が集まらない…」と運営陣が嘆くような心理的コストも減り、イベントの安定開催に一役買っています。

そういったShibuya.lispでの経験から言えば、油谷さんの不安は理解はできるけれども、あんまり心配しても仕方ないのでは、と思うわけです。

*1:Lispに関係すること、というのが唯一の条件だったと記憶。